山仕事について

木こり

僕は木こりだ。
針葉樹は自分の製材工場で挽く。広葉樹は自分の窯で炭にする。
山を請け、伐り、出し、運ぶ。
スギやヒノキを伐るのは「伐り旬」。秋の彼岸から春の彼岸までの半年。その半年間に約6~7回訪れる、「新月期」と呼ばれる期間に伐ります。
秋の彼岸(秋分の日)を境に、太陽の光は弱くなり、春の彼岸(春分の日)を境に、強くなる。光合成が穏やかな時期に木を伐採するのです。これは、伐った木を製材する時に、最終的な乾燥がとても大切です。彼岸を過ぎ、光合成が穏やかになると、根から吸い上げる水の量が減ります。木が水を吸い上げるしくみは、光合成によって、水の分子が1個使われると、負圧になっている導管の先にある根から水の分子を1個吸い上げます。つまり、光合成の強さによって、吸い上げる水の量が変わる。伐り旬の木は、水分が少なくなっている。乾燥がマスト条件の仕事なので、元から水が少ない方が都合がいいのです。重量もかなり変わります。夏の木より、冬の木の方が軽い。単位体積あたりの酸素量が減る夏は、チェンソーの調子も良くない。真夏の山仕事は過酷です。秋、冬、春の方が効率よく仕事できる。という理由もあって、伐り旬で山仕事をするのです。
新月期とは、月の形態(新月→上弦→満月→下弦→新月)によって、海面を上昇、下降させるくらいの力を持った月の引力は、生き物にも多大な影響を及ぼします。一般に、満月の頃は、バイオカーブが上昇のピークで、植物の澱粉が増える。つまり、虫が寄りやすくなる。一方、新月の頃は下降のピークで、澱粉が減る。それは虫が寄りにくいことを示す。
生き物としても、大人しくしている時期なので、木材にした場合に暴れにくい。
新月期に伐った木は、燃えにくいと言う話もあります。建築の材料にするには、新月期(下弦~新月の1週間)に伐採した方が良いのです。これは、僕の経験でも明らか。新月期に伐った木は腐りにくいです。
「伐り旬」「新月期」に伐った木を製材機に載せるには、もう一手間あります。
それが「葉枯らし」。普通、林業の現場では、伐採した木は、すぐに枝葉を落として、売り物になるような長さ(3.1mとか、4.1m)で伐り、搬出(造材といいます)、運搬します。これをせず、葉っぱを付けたまま、林内に置きます。すると、木は葉っぱが付いているので光合成を続ける。ところが、根は切り離されているので、水は吸えない。木の生体能力を使って乾燥を進める方法です。これだと、木の内部にある細胞内の水分がゆっくりと動き、木が穏やかに乾いてゆく。
葉っぱが光合成を止めるくらいの期間(数か月~半年)、そのまま置きます。
木口の含水率が30%台になるまで葉枯らししてから造材です。すると、木の脂分は残っているから、乾いているけどしっとりとした感じになります。
当然木材としては良い状態です。
僕の木こり仕事は、一度にたくさんの木を伐り出して、大きく儲けることはできない。代わりに、一本一本、生き物として扱い、じっくりと山仕事をする。
トレーサビリティを問われたら、「切り株までご案内できます」と堂々と言えること。これが僕の木こり仕事を物語っています。
使う道具はこの丈夫な身体、チェンソー、伐採に必要な小道具(牽引具や矢、刃物など)。チェンソーはスチールが多いですが、ハスクも使います。チェンソーだけで10台近く所有してます。主に使うマシンはスチールMS241C-Mで、16インチバーにセミチゼル刃。広葉樹も対応可能なように、上刃は25度で研ぎます。
搬出は、自分のユニック(三菱キャンター 3tユニック 4WD)で、フックはシングル仕様。林道から伐採木まで、リモコンでワイアを緩めながら、フックを持って行き、ウインチで巻いて集材、そのまま積み込んで自分の製材所まで運搬。それが僕のスタイルです。
一日に数立米しか伐り出せないレベルですが、これも林業です。


   僕にはこんな仕事しかできないけれど、この仕事は僕にしかできない

毎日、そんな想いを胸に、誇り高く愚直に仕事をしています。