山村での田舎暮らしについて

田舎暮らし

僕はいわゆる、Iターン者だ。田舎でしかできない仕事をしたくて、身体ごと山村にやってきた。
今棲んでいるのは、愛知県豊田市の岐阜県に近い地域だ。今は合併して豊田市になっているけど、旧の地名は東加茂郡旭町。豊田駅から約1時間、東名名古屋インターからも1時間、中央道瑞浪インターから40分の場所。
家の標高は360m。夏はまあまあ暑いけど、冬はそれほど寒くない。雪もそれほど積もらない。
北三河と呼ばれる地域だ。
僕が暮らす小田町という集落は、9軒しかない小さな限界集落。平均年齢は60後半。
旧旭町敷島自治区に属す。
住人はみな、仲が良くて家族のような存在。当然、各自役割があって、集落のいろんなお役がある。
僕がここへ来てから11年になるけれど、その間に町内会長を2回やった。
お役にはいろいろあって、草刈、お宮さんの掃除、月に一回の常会、年に数回の飲み会、お祭りなど。
自治区にある、さまざまな部会への活動参加もお役のうちだ。
僕はもう、10年近く、「定住促進部」という部会に属している。
そして、数回の副部長経験を経て、令和2年度は部長を仰せつかっている。
定住促進部の活動は多岐に渡り、9町内会から選ばれたそれぞれの部員さんと一緒に頑張ってる。
各町内の空き家の把握、空き家の家主の確定、豊田市役所が管理する空き家情報バンクへの登録促し、高齢者の手助け、自治区祭りの手伝い・・・・・
空き家情報バンクに登録されて、市役所に問い合わせがあると、応募者が見学にくる。その見学会の主催も定住促進部の役目だ。見学会に来た人たちが、その空き家に対して入居の応募をすると、「地域面談」が行われる。「地域面談」はマスト条件で、それで不合格になると、契約の権利が無くなる。
移住希望者はその土地や家を選び、その土地の人間は人を選ぶ。
実は僕自身も「地域面談」を受け、合格してこの家を借りている。
形式や建前だけの面談ではない。応募者がその集落にそぐわないと判断すれば、容赦無くNGになる。実際、僕の住むこの集落でも、今年初めに行った地域面談でNGを出した。
「定住促進部」は「移住促進部」ではないんだ。地域の活動家とか、大学の先生たちはとかく数字を出したがる。その年度に何人の人が移住してきたか。と。
本質は、その移住者たちが、定住したか?ということなんだ。10年経って、その移住者たちは集落に溶け込み、本人はもちろん、周りの人たちも幸せに過ごしていること。それが「定住」だから。移住はしたけど、数年で出てゆくことになった人たちをたくさん見てきた。その人たちが出てゆかなければならなかった理由を掘り下げて、原因を見極め、それを裏返すことで、移住から定住へのシフトが確実になる。
僕のような「ヨソモノ」を部長にするってことが、この自治区の懐深さを物語る。
今年初めの、僕が住む集落地域面談の前に、僕は当時の町内会長に頼んで、全員を集めてもらった。その会合で、「集落として、どんな人に来て欲しいか?どんな人には来て欲しくないか?」と問うた。すると、3時間にも及んだ議論があった。その結果をガイドラインとして、移住希望者を査定した。
ガイドラインは、全くもって、集落にえこひいきしている。それで良い。
移住希望者は、集落のルールに従ってもらう。それが条件だ。事前にどれくらい移住希望先のことを調べ、学んでいるかも問う。例えば病院の位置、買い物の場所など。
最も重要なのは、10年後の生き方のビジョンがどうか?ということ。それと、人口を増やせるか?ということ。詳しく書くと、ガイドラインがわかってしまうのでこれくらいにするけど、要は集落側のルールに従ってくれる人かどうか?を面談によって見極めるということ。
移住はしてきたけど、地域のルールを無視する輩もいる。そんな人たちは孤立してゆき、いずれ去る。それは両者お互いが不幸なことなんだ。だからこそ、最初が肝心だし、地域のルールを説明する。
せっかく移住を希望してくれている人なのに、集落の都合やルールで査定します。それが「地域面談」。僕は自治区定住促進部部長なので、旧旭町全体の「定住委員」も兼任している。「定住委員」は、担当自治区内の「地域面談」には出席し、移住希望者をきちんと査定する役目がある。
僕は「地域面談」では厳しい。それが僕の役目だからだ。落とすつもりで面談に臨む。それくらいでちょうどいいと思っている。
しかし、地域面談で合格し、晴れてその集落の住人になると決まれば、僕たちは全面的にバックアップする。草刈も教えるし、頻繁に様子を見にいくし、相談にも乗る。定住するまでが僕たちの仕事だからだ。
そうやって、地域を支え、支えられという関係こそが、田舎暮らしの醍醐味だと思う。