今日も暑かった。
夜8時半頃、北西から南東に向けて、ISS「きぼう」が星空の中移動していった。見え始めたあたりはまだ中国大陸の上空。ほぼ真上に見えている時は日光の上空あたり。光が薄くなって見えなくなる直前は、千葉の上空だった事が驚きだ。地球のスケールを感じた。
この時間、山村はすっかり涼しい空気に包まれる。
前の広葉樹林からはフクロウの声がして、田んぼから聞こえるカエルの声は随分と少なくなってきた。
夏至を過ぎ、一日の日射量は確実に減り、ちょうど今頃はこの大きな地球が、蓄熱から放熱へと切り替わるタイミングだから(地球のサイズだと、日射で蓄熱したあと、日射量は減るのに、放熱まで一か月以上のタイムラグが生じる。反対に、冬至から一か月以上して最も寒くなるのも、日射量は増えても、地球が大きすぎて、放熱から蓄熱までに一か月以上のタイムラグがあるから)7月下旬が一年で最も暑い時期になる。お盆の頃になると、更に日射量は減り(日が短くなり)、地球自体も冷め始める。都会では実感できないかもしれないけれど、山に近い場所では確実に、少し涼しい方向に向いてる。
この時期のこの時間(7月下旬の0時近く)になると、東の稜線にカシオペアが昇ってくる。アンドロメダも見える。すぐに、秋の四辺形が昇ってくる。
今夜は雲も無く、昨日が新月だったから、すごく星がキレイだ。夏の天の川がちょうど真上を横切っていて、双眼鏡で眺めてみると、思わず「わぁ」と声が出るくらい素敵だ。
僕たちがぼーっとしている間に、地球は公転で位置を変え、秋に近づいているんだなあ。
ちょうど今頃、木々たちは春目(年輪と年輪の間の色が薄い部分)を作っている。日差しも強く、日照時間が長いという事は、光合成が活発だから木々は横方向へ成長する。そのピークが夏至のあたり。盆を過ぎると、秋目(いわゆる年輪)を作り始める。それは、日差しが弱くなり、日照時間が減るので、光合成が緩やかになる事で、横方向の成長が遅くなる。簡単に言うと、秋分から春分までが秋目(年輪)、春分から秋分までが春目を作る時期。この秋目を作っている時期は、光合成が緩やかなので、根から水を吸い上げる量が減る(光合成とは、吸い上げた水分と、大気中のCO2を反応させて、CとO2を作ることだから)。つまり、木々が含む水分量が少ない時期。伐採・製材後には材木を乾燥させる事がマスト条件になるから、元々水分の少ない時期に木を伐る(これが伐り旬)。含水率が小さいという事は、木の重量も少なく、その分安全で搬出もしやすい。だから僕は、伐り旬の新月前の一週間で木を伐り、更に葉枯らしさせるんだ。
ちなみに、木の太さを決める要因が光合成量、高さを決める要因が地位(生えている場所の水分や養分)だ。
この秋目は固く、僕たち木挽き職人にとっては、木取りの目安になる。目を切らないように丁寧に挽くのが木挽きの美学なんだ。
木材(特に日本の人工林材)は、春目と秋目がハッキリしていて、例えるならば、秋目が鉄筋で、春目がモルタルとなる。だから目が詰んでいる材は強いし、変形しにくい。当然、高い値で買ってもらえる。それを構造材に使えば、強い架装になる。目が詰んでいる材を造るために、加子母あたりのヒノキは北斜面に植えられている。ゆっくりと育てるためだ。
その秋目を木材の端から端まで平行に通して挽くのが「目切れ無し」製材だ。板、芯去り材を挽く時には、これを徹底するように木挽きの師匠からは叩き込まれた。
余談だけど、四角く製材した木材よりも、丸太の方が強い。目を切っていないからだ。例えば、直径10cmの丸太と、一辺が10cm角の柱材では、10cm角の柱材の方が体積は大きいけど、ほとんど強度に差が無い。丸太の中は、円錐形の秋目(鉄筋)が切れ目なく繋がっているからだ。
それにもしも、10cm丸太の方が目が詰んでいて、年輪の数が多いならば、むしろ丸太の方が強い。
木材の強さは、年輪の数で大きく変わる。だから机上では(木の樹種とサイズだけを考慮しても)正確に算出できないのだ。四角く挽くのは、大工さんが正確に組み上げる事ができるのと、挽いてある木の方が上品だから。
しかも、よく言われるのは、スギは柔らかく、ヒノキは固いから、ヒノキの方が強いと。
それも一概には言えない。縦の圧縮方向に関して、目の詰んだスギは、単位重量当たりの強度は鉄に匹敵する。そして、柔らかいスギを構造材に使えば、極限ではしなる事で地震などの入力を逃がす。RCなどで強固に作られた家は、ある程度の震度までは耐えるが、その先は破壊・崩壊する。柔らかいスギと、固いヒノキを木組みで造った家は、傾いても、崩壊しない。
それが、木造住宅の良さ。構造を木で作り、壁を土(ミネラル)で作った家は、木の蓄熱・放熱特性と、土の蓄熱・放熱特性が違う事から、ゆっくりと冷めてゆく。これが日本ではちょうどいい住宅性能になる。
そう。母なる地球の恵み(木と土)が、命の箱を形成するんだ。
僕の仕事は、木を伐り、出し、挽く。大好きな仕事。
それを成り立たせているのが、「火=太陽光」「風=地球の大気」「土=地球そのもの」「水」。
無限に拡がる大宇宙と自分と地球。父なる太陽と、山の木々たちと、水と、全ては調和しながら、影響を与え合って、シンクロしながら混ざりあう。まさしく、ガイア理論。
もう、神秘的としか言いようがない。
