22年前の修行中、夜中に師匠の窯に薪をくべていた。静かに燃える炎を見ながら、俺はこの仕事で生きてゆくんだと、携帯も通じない山奥の、誰もいない窯の前で、静かに覚悟を魂に宿した。
そして今、やはり誰もいない工場の、自分の窯に火をくべながら、ふといろんなものを抱えてしまっていると気付く。
捨て去ることによって落とし前をつけるという方法が最も、僕には合っている。
もちろん、一つ一つのことにいちいち決着をつけていたら、逆に前へは進めない。終わらないまま、次のことを始めて、いろいろな事情を引きずりながら、それでも歯を食いしばって進んでゆくんだ。
いっそのこと、全てを捨て去って、昨日に爪を立てて、今日を這いずり回り、明日に向かって吠えたい。
その想いとは裏腹に、今日も「稼ぎ」と「仕事」の狭間でもがき苦しむ。
窯に火を入れると、様々なことが頭を駆け巡るんだけど、小さな音で流しているジャズと、見上げた星空や闇に浮かぶ山々の稜線に心奪われる。
この星たちはこんなに美しいし、僕は毎日でも眺めていたいのに、あの星たちには僕のことなど関係ない。
木々や山河に馳せる僕の想いも、実は僕の自分勝手な妄想であることは知っている。
けれど、今していることはこれでいいし、小さな達成感だけど、誇り高き僕の「仕事」である。
窯が温度を上げて、そこから立ち昇る煙の匂いからいろんなことを考えてる。
時間に追われた日々から時々、真夜中に山村で煙を上げて、自分の行き先を確かめるのもいいもんです。